今も世界中で愛されるヒップホップジュエリーの歴史
音楽だけではなくファッションとも深いつながりを持つヒップホップカルチャー。
なかでも派手で大振りなヒップホップジュエリーは、カルチャーを代表するアイテムのひとつです。
ヒップホップジュエリーはどのようにして誕生したのか、その歴史について振り返ってみましょう。
■ヒップホップジュエリーとは
ヒップホップジュエリーとは、ラッパーやDJ、ダンサーなど、ヒップホップアーティストの多くが身に着けている大振りで派手なジュエリーの数々を指す言葉です。
ごつごつとして大きなチェーンネックレスやブレスレット、大きなピアスや指輪など、過剰なほど華やかなデザインが特徴です。
ゴールドやプラチナ、ダイヤモンドなどからつくられているジュエリーの数々はとにかく目立つため、ヒップホップカルチャーに詳しくなくとも多くの方がイメージできることでしょう。
こうしたジュエリーがヒップホップカルチャーを代表する、ヒップホップファッションには欠かせない定番アイテムとして長く愛されているのには深い歴史と意味があります。
■ヒップホップジュエリーの起源
今日も多くのファッショニスタやアーティストに愛されるヒップホップジュエリーが生まれたのは、1970年代のこと。
ディスコが流行したこの時代に、ヒップホップというジャンルの音楽、そして音楽を取り巻くカルチャーが誕生しました。
今日のヒップホップミュージックは多くの音楽ジャンルなかでも特に人気を集め、そのテイストやニュアンスがほかのジャンルの音楽にも取り入れられているほどですが、その歴史はニューヨークのブロンクスにあるディスコでスタートしたのです。
ヒップホップミュージック黎明期を支えたアーティストのなかでも、ヒップホップジュエリーを身に着け広めた人物として知られているのはヒップホップのゴッドファーザーとも呼ばれるDJ、クール・ハークです。
クール・ハークは普段からロープのような形のゴールドのチェーンネックレスを身に着けていたそうで、このゴールドのチェーンは人が多く集まるパーティーのさなかでもすぐに彼を見つけられるとされるほど、クール・ハーク、ひいてはヒップホップアーティストのトレードマークとして有名になりました。
クール・ハークの音楽、そしてファッションスタイルはどちらもすぐに人気を集め、ヒップホップカルチャーの確立につながっていきます。
ヒップホップミュージックはいつしかディスコを飛び出し、路上に機材を持ち出して行われるブロックパーティーでさらに発展・進化を遂げることになります。
街角に集まりパーティーに興じるアフリカ系アメリカ人の間で、ヒップホップジュエリーは高い人気を博すようになりました。
ヒップホップジュエリーは、ヒップホップミュージックがより多様化しユニークに分岐・進化していくなかでもアーティストどうしを強く結びつけるものでした。
音楽の方向性が多少違っても、ゴールドのチェーンを身に着けていればヒップホップアーティストとして連帯できたのです。
ヒップホップジュエリーは著名なアーティストが進んで身に着けることでさらに人気を集め、現在はヒップホップカルチャーを象徴するファッションアイテムのひとつとして、アーティストのみならず多くのファッションを愛する人々にも親しまれるものとなりました。
ヒップホップ業界においてはもともと男性のアーティストばかりが台頭していたため、必然的にヒップホップジュエリーも男性のためのアイテムという毛色が強い傾向がありました。
近年は女性アーティストやラッパーも評価され高い人気を得ていることに伴って、女性のファッションにも馴染むようデザインされたゴールドのチェーンなども人気を集めています。
これまで男性がステータスシンボルとしてヒップホップジュエリーを身に着けていたのと同様に、女性にとってもゴージャスなジュエリーは自分自身のパワーと成功、能力の高さが正当に評価されていることの象徴でもあります。
アーティスト本人はもちろんのこと、洗練されたアーティストのファンであることを自認する多くの人々にとっても、ヒップホップジュエリーを所有し身に着けることはひとつのステータスとなっているのです。
ヒップホップジュエリーはその少々大げさともいえるほどのゴージャスなデザインが特徴となっていますが、こうした大げさなデザインが愛されるのにもちゃんと理由があります。
単なるファッションアイテムのひとつではなく、カルチャーを象徴するものだからこそ、過剰なほどゴージャスでラグジュアリーなデザインを採用する必要がありました。
さまざまな背景のもとこうしたテイストが定まったヒップホップジュエリーは、その時々のトレンドのニュアンスを踏まえながら、1970年代にルーツを持つトラディショナルなアイテムとして今も多くの人々に愛され、現在もさまざまなファッションに取り入れられています。
■ヒップホップジュエリーが表現するもの
ヒップホップミュージック、アーティストを象徴するアイテムであるヒップホップジュエリーですが、デザインが派手で格好いいから愛されているというわけではありません。
ヒップホップジュエリーは、ステータスを象徴するシンボルとして、富や成功、高い地位などを表現しています。
象徴的な意味を持つジュエリーだからこそ、長い間定番のスタイルは変化せずに今も愛され、多くの人が身に着けているのです。
ヒップホップジュエリーが単なるファッションアイテム以上の意味を持っているのは、ヒップホップミュージックがアフリカ系アメリカ人の間で流行したことに由来しています。
歴史的に貧しい暮らしをしている人も多いアフリカ系アメリカ人のコミュニティで生まれたヒップホップミュージックは、貧しい育ちの人が生まれた環境から抜け出して成功し、豊かさを手に入れるための手段のひとつでもありました。
アーティストとして業界で成功し富を手にすれば、過去にあった奴隷制度、そして今もまだ根深い問題である差別などの困難や理不尽を克服することにつながります。
「自分は成功している」「もう虐げられる立場ではない」と言外に主張するため、人々は高価なゴールドやダイヤモンドがふんだんに使われたゴージャスなジュエリーを身に着けるようになったのです。
ヒップホップジュエリーが大きくてよく目立ち、時に大げさすぎるほどのデザインである理由はここにあります。
ゴールドのチェーンをはじめとし、ダイヤモンドなどの宝石があしらわれた誰もが羨むようなラグジュアリーなジュエリーは、端的に彼らの成功と困難の克服をアピールする手段なのです。
■ヒップホップジュエリーの定番アイテム
とにかくゴージャスで、見る人の目を惹くインパクトのあるデザインが特徴であるヒップホップジュエリーには、いくつかの定番アイテムがあります。
その時々のトレンドを取り入れながら少しずつ変化しているヒップホップジュエリーですが、今も多くの人に愛される定番のアイテムをご紹介します。
・キューバンチェーン
ロープや鎖のようなデザインが特徴のキューバンチェーンは、ヒップホップジュエリーを代表するアイテムのひとつです。
ペンダントトップはつけなくとも、ゴールドのチェーンはそれだけでもとても目立ちます。
ただシンプルなデザインなのでインパクトはあっても品のない仕上がりにはならず、むしろシックで上品なヒップホップテイストを感じさせるアイテムです。
・テニスチェーン
ダイヤモンドをふんだんに使ったテニスチェーンもヒップホップジュエリーを代表するもののひとつです。
ひとつひとつのダイヤモンドの輝きはとても華やかで、まさに富や成功を象徴するのにふさわしいジュエリーといえます。
ボリューミーなデザインはもちろん、細めのチェーンのシンプルで品のいいデザインにもぴったり。
ヒップホップジュエリーのなかでも特に洗練されたアイテムです。
・大きなペンダントトップ
大きくてよく目立つペンダントトップもヒップホップジュエリーの定番アイテムのひとつです。
デザインはさまざまですが、ヒップホップジュエリーについてはどっしりとボリューム感のあるサイズ感のものが長年愛されています。
エレガントでシンプルなデザインのものなら男女問わずさまざまなファッションに合わせやすいアイテムで、挑戦しやすいヒップホップジュエリーといえるでしょう。
・大振りのリング
ヒップホップジュエリーではリングも大振りのものがスタンダード。
太くごつごつとしたデザインにダイヤモンドがあしらわれたリングなど、まばゆく輝くようなアイテムが愛されています。
・ダイヤモンドピアス
一面にダイヤモンドが散りばめられたピアスはヒップホップファッションにぴったり。
大振りなデザインのピアスはもちろん、小振りでもダイヤモンドやホワイトゴールド、プラチナを用いて華やかなデザインに仕上げたものが人気です。
控えめなサイズのピアスならさまざまなファッションにマッチし嫌味のない華やかさを添えてくれます。
・グリルズ
歯に取り付けるジュエリーであるグリルズもヒップホップカルチャーから生まれたもの。
歯にゴールドやシルバー、プラチナ、ダイヤモンドなどをあしらった飾りをつけるこのグリルズは、アメリカのセレブを中心に爆発的な人気を集めています。
■ヒップホップジュエリーのトレンドの変化
ヒップホップジュエリーは、もともとはごく一部の成功したセレブリティーしか身に着けられない大変高価なものでした。
ですがヒップホップカルチャーが大衆に浸透し、ヒップホップジュエリーの需要が高まるにつれ、より手に入れやすい価格帯のアイテムも増えています。
ファッションアイテムとして、そして富や成功を示すシンボルとして、大きく派手で華やかなジュエリーはこれまでもこれからも長く愛されることでしょう。
ただファッションのトレンドに移り変わりがあるのと同様に、ヒップホップジュエリーにもトレンドがあります。
たとえば1970年代、ヒップホップカルチャーの勃興とともに独特のジュエリーが流行しはじめた頃は、今日の定番のキューバンチェーンよりもさらに細く控えめなロープチェーンが主流でした。
ジュエリーのデザインがより派手に、大きくなっていくのは80年代以降のことです。
ヒップホップジュエリーはヒップホップカルチャーやアーティストを象徴するものとなり、ヒップホップミュージックの人気を支える要素のひとつとなりました。
ヒップホップジュエリーのトレンドは、しばしば人気アーティストが身に着けるジュエリーから生まれます。
たとえばカーティス・ブロウが複数のチェーンネックレスに大きなペンダントトップをいくつもつけることで、ラグジュアリーでゴージャスなヒップホップジュエリーが一層広く知られることとなりました。
過剰といえるほどに大きなゴールドのチェーンが流行したのはRun DMC、ゴールドではなくプラチナやダイヤモンドを用いたジュエリーも人気を集めるようになったのはJay-ZやP.Diddyが発端でしょう。
人気が高い著名なアーティストたちが、ヒップホップジュエリーのトレンドや人気を牽引してきたのです。
今やヒップホップジュエリーの人気はヒップホップカルチャーを特に愛する人々の間にとどまらず、ファッションのテイストにかかわらずコーディネートに取り入れられるようになってきています。
さまざまな音楽のジャンルにヒップホップミュージックのテイストが取り入れられるのと同様に、ヒップホップファッション、そしてジュエリーのテイストやニュアンスも、ほかのジャンルのファッションにエッセンスとして取り入れられ、洗練されたアイコンとして高く評価されています。
近年のヒップホップジュエリーのトレンドは、ダイヤモンドピアスやアイスドアウトウォッチです。
アイスドアウトとは、派手に着飾ることや装飾することを意味するスラング。
高価なブランド物の時計を身に着けているセレブリティーは昔から多いですが、なかでもヒップホップカルチャーを愛する人にはダイヤモンドなどの宝石が散りばめられた、特に派手でゴージャスなデザインの時計が人気のようです。
一方でキューバチェーンや大振りのペンダントトップなど、昔ながらの伝統的なアイテムもまだまだ根強い人気です。
ペンダントトップをいくつか組み合わせるような着こなしは、時に派手で大げさすぎるデザインにも感じられるヒップホップジュエリーをよりセンスよく身に着けるポイントといえるでしょう。
■伝統と革新が同居するヒップホップジュエリー
現在も、ヒップホップジュエリーはアーティストやスポーツ選手など自分自身の能力で富や地位を得た成功したセレブリティーを象徴するファッションアイテムとして、多くの人々に愛されています。
一方で、こうしたセレブリティーに憧れ応援している大衆からも重要なアイコンとして人気を集めるようになりました。
ファッションのトレンドは日々移り変わっていきますが、そのなかでヒップホップジュエリーの定番アイテムの数々はタイムレスな魅力を放ち、今もたくさんの人々を魅了してやみません。
ヒップホップカルチャーを愛する人、そしてヒップホップジュエリーが象徴するパワーに憧れる人にとって、大振りで派手なジュエリーは必要不可欠なファッションアイテムなのです。